コラム 2019.12.21 【サッカーダイジェスト|現役の眼】どこか”心”で負けていた日韓戦。ひとりの敵FWにCB3人でマークしていては… 心の部分。残念ながら韓国のほうが上回っていた どこか気概が感じられなかった日韓戦の森保ジャパン。0-1のスコアが意味するところは──。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部) 今季のJFLもJリーグも終了し、天皇杯を戦うチームも残るは4チームのみとなりました。それでも相変わらず、日本代表選手は12月のこの時期まで大忙し。韓国の釜山で開催されていた、E-1東アジア選手権です。 僕自身も2008年のE-1選手権に出場しました。イビチャ・オシム監督から岡田武史監督に代わって最初の公式戦で、最終戦の日韓戦のピッチにも立ちました。 日韓戦。やはり特別な試合です。メキシコ・ワールドカップ最終予選の木村和司さんのフリーキックから始まり、山口素弘さんや名波浩さんが決めたゴールもすごく印象に残っていて、シビれる試合が多かった。個人的にも日韓戦に対しては思い入れが本当に強くて、国を背負って戦う緊張で、スタメン出場する試合前に吐き気を覚えたのが、いまでも忘れられません。 水曜日に行なわれた日韓戦も、出場した選手たちにとっては、やはり一生忘れられない試合になったと思います。まさに魂のぶつかり合い、国と国の威信を懸けた戦いだと僕は考えているので、その心意気をこの試合でも感じさせてほしいと思い、観戦しました。 このゲームのポイントを挙げるなら、ふたつです。 ひとつ目は先ほど話しましたが、「心の問題」。もうひとつは、新しくフレッシュな選手たちがチーム戦術を駆使するなか、どこまでプレッシャーのかかるゲームで冷静に戦えるのか、です。大きくはこの2点に絞り、90分間を通して観ていきました。 まずは、心の部分。ここは残念ながら、韓国のほうが上回っていました。 日本は相手の気迫、ファウル気味のプレーの連続に対抗しようと努めましたが、次第にボールを奪いに飛び込んでくるスピードをいなせなくなっていきました。なかなか日本のペースに持っていくことができず、勢いに押されるがまま失点してしまいました。 前半途中におそらくベンチからの指示で、3バックから、ボランチが落ちての4枚回しに変更し、そこからは少しボールを持てるようになりました。ただ、前の選手と連動したイメージがなかなか湧いてこず、3人目の動きが乏しい。ウイングバックが前向きでボールを持てる場面でも仕掛けることなく、後ろにボールを下げるばかり。韓国選手をやっつけよう、目の前の敵に勝ちたいという気概は、あまりプレーからは伝わってきませんでした。 ボールは多少持てるようになったけど、前には進めない。そんな状況のまま、前半が終わってしまった印象です。 後半に入ってからは相手が日本の力量を理解してきて、日本も韓国の出足に慣れてきたこともあり、激しくプレッシャーがかかるようなシーンは減りました。 53分には日本の4枚回しに対して、ポジショニングの確認を韓国の監督がしていました。韓国側はある程度ボールを回されてもいい場所、そのあたりの割り切りが後半はできていたように感じます。最終的に日本は「決定機」と明確に言えるようなシーンを作れないまま、タイムアップを迎え、0-1で敗れ去ってしまいました。 心の部分で韓国の選手より優っていたのは、後半頭から投入された相馬勇紀選手くらいで、ほかの選手は互角か、劣っている選手ばかりだったのが残念です。相馬選手は個の1対1の部分でも果敢なチャレンジを続け、勝利していました。 マッチメイクの部分が上手くいってなかったように感じる 著者は後半から投入された相馬の積極性を高く評価した。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部) ふたつめのポイントである戦術の部分ですが、日本の選手たちは監督に指示された通りにやっていたのだと思います。 問題点は、ひとりの相手FWに対してCB3人でマークしていることでした。ボール回しにしてもボランチがフォローに入り、CB3人とでの4枚回し。両サイドのCBがサイドバックの役割をもっとこなしていたなら、状況は変わっていたでしょう。 相手チームとの力のバランスやポジションバランスを考えたうえで攻撃的に行くのなら、後ろを1枚削って前の選手を増やすしかない。そうすれば敵を混乱させられるし、また、攻撃の厚みも出せます。このあたりは、日本代表としてどのように韓国と戦っていくのか、そのマッチメイクの部分が上手くいってなかったように感じました。 今後、強豪国や日本より格上と見られる相手と戦うとき、いかに柔軟にポジションバランスを変え、さまざまな役割をひとりの選手がこなして、相手チームを混乱に陥れられるかが大事になってきます。そうした戦術的なアプローチに期待したいです。 今年1年を振り返れば、なにはともあれ、ワールドカップ予選で順調に勝ち星を重ねました。2020年の日本代表は、チーム全体の底上げや主力選手の個の力だけでなく、戦術面でも観ていてワクワクさせてくれるような、そんな1年にしてほしいです。 <了> 橋本英郎(はしもと・ひでお) PROFILE はしもと・ひでお/1979年5月21日生まれ、大阪府大阪市出身。ガンバ大阪の下部組織で才能を育まれ、1998年にトップ昇格。練習生からプロ契約を勝ち取り、やがて不動のボランチとして君臨、J1初制覇やアジア制覇など西野朗体制下の黄金期を支えた。府内屈指の進学校・天王寺高校から大阪市立大学に一般入試で合格し、卒業した秀才。G大阪を2011年に退団したのちは、ヴィッセル神戸、セレッソ大阪、長野パルセイロ、東京ヴェルディでプレーし、今季からJFLのFC今治に籍を置く。日本代表はイビチャ・オシム政権下で重宝され、国際Aマッチ・15試合に出場した。現役プロ選手として奮闘する傍ら、サッカースクールの主宰やヨガチャリティー開催など幅広く活動中。Jリーグ通算/438試合・21得点(うちJ1は339試合・19得点)。173センチ・68キロ。血液型O型。 この記事について:サッカーダイジェストWEBより転載 https://www.soccerdigestweb.com/tag_list/tag_search=1&tag_id=217 前の記事へ 一覧へ 次の記事へ 関連の記事 コラム 2017.09.01 【現役の眼】元日本代表MF、橋本英郎が見極める「日豪決戦、勝負を分けたポイント」 コラム 2019.09.03 新コーチの小西雄大です! コラム 2019.10.19 【サッカーダイジェスト|現役の眼】驚かされたタジキスタンの闘う姿勢。“緊張感”を欠いたままなら日本の最終予選は…