コラム 2017.09.14 【現役の眼】元日本代表MF、橋本英郎が考察する「プロになれる選手、なれない選手」 (C)SOCCER DIGEST こんにちは、今回もよろしくお願いいたします。意外とたくさんの方に読んでもらえてるようで嬉しいです。 今回は少し趣を変えて、自分自身が感じてきた若手の才能について書いてみようと思います。 ガンバ大阪時代、僕は本当に才能豊かな選手たちと共にプレーできました。その際はあまり若手の才能について考えることはなかったんですが、今回、サッカーダイジェストの担当者さんとお題を考えている時に「どう見極めるのか?」という話になり、少し考えてみることにしました。 基本的に僕自身の感覚として、プロの選手になれる時点で才能はあると思っています。 その中で、プロ選手になれたきっかけはいくつかのパターンに分類されるのかなと感じるので、まずはジャンル分けしてみたいと思います。それが我が子や、プロを目ざしている育成年代の子どもたちの参考になれば嬉しい。自分自身に置き換えて、どのジャンルからプロを目ざすべきかを考えていただけたら、面白いかなと思います。 ジャンルは大きく分けて5つあります。 まず1つ目は、誰が見ても分かる才能の持ち主。言ってみれば、プレーをさせたら一目瞭然で「巧い!」と分かるパターンですね。 これにピッタリ当てはまるのが、元ガンバで現フォルトゥナ・デュッセルドルフの宇佐美貴史選手。体型的にはずば抜けた感じはないんですが、ボールを蹴らせたらセンス溢れる動きやボールタッチなど、サッカーを観てきたひとからすればすぐに分かるレベル。天才と言われる選手です。 セレッソ大阪の柿谷曜一朗選手も同じ。僕がセレッソにいた頃、柿谷選手と長く一緒にプレーしている酒本憲幸選手が、中学3年生の時に彼が練習生として上がってきた時の衝撃はすごかったと言ってました。トラップやキックの質など、すでにプロ顔負けのレベルにあったようです。 ふたつ目は、体格やスピードに優れた選手。 こちらも見れば分かりますよね、技術不足の選手が多い印象はありますが、やはり、技術重視でプロになった選手より図抜けた体格やスピードを持っています。 体格のいい選手は、まず面と向かった時に「デカイなぁ」と言われてますし、姿勢が良かったり身体を使ってプレーするのが本当に巧い。スピードのある選手は、パッと見では分からないですが、練習が始まってステップワークなどを見ると明らかに動きの切れの部分が違うし、なによりそこに自信を持って動いています。 こうした選手に対してはよく「荒削り」という表現が使われ、原石扱いされがちです。あくまで個人的な見解になりますが、体格がいい選手では、鹿島アントラーズの植田直通選手がこのタイプだと感じました。スピード系では、水戸ホーリーホックの前田大然選手ですね。 ふたりとも荒削りな部分はありますが、植田選手はリオ・オリンピックでの経験を経て、鹿島でレギュラーとして研鑽を積みながら、着実に荒削り感が取れてきたと思います。まだまだ伸びしろがありそうで、成長していくのではないでしょうか。前田選手は今季の水戸でブレイクしていて、進境著しい。聞けばまだ19歳! 戦術的理解や動きの質などはこれからどんどん洗練されていくのではないでしょうか。 3つ目は、ポジションニングやサッカーの理論を理解して、それをピッチ上で実践できる能力に長けた選手です。 監督の言っている意図を読み取り、ピッチの上で表現したり、味方選手にアプローチしたり、それだけでなく、言われたことを丁寧にこなせるメンタリティーを持っている(精神的に大人であり、冷静沈着な)選手です。 どうしても内面的な要素や、戦術理解度の部分になってしまうので、パッと見ただけで気づくのは難しいかもしれません。 なぜかチームが上手く回っているなと感じられたり、ドリブル突破をしてほしい時にその選択を取れたり、カウンターアタックの起点を事前に完全に潰してくれたりと、クレバーさが売りになってくるので、プレーヤーとしての欠点がいくつかある場合があります。それをカバーするために、考えてプレーするようになったタイプですね。 例としては、レベルが高くなってしまいますが、ジュビロ磐田の中村俊輔選手です。 技術レベルが高いので、そちらに目を奪われがちですが、ゲーム内で勝つにはなにが必要かを考えてプレーしています。無駄に走らないといけないところはしっかり走る。パスを出すよりドリブルしたほうがいい。ファウルを受けてチームメイトが休む時間を作ってあげる。そうしたことを考えてプレーしているのが、随所に表われています。 監督の意図を理解してチームメイトにも伝えますし、そのような姿勢はベテランになった現在だからできているのではなく、若かりし頃から持ち合わせていた能力だと思います。 写真:佐藤明(サッカーダイジェスト写真部) 4つ目は、圧倒的な技術を持っている選手です。 体格が小さめの選手が多いですが、ドリブルの技術やパスセンスが抜群のタイプです。このゾーンは、日本人が大好きだと思いますね。親御さんたちも我が子を育てる時に、まずはこのゾーンを目ざしているような気がします。 例としては、東京ヴェルディの二川孝広選手、横浜FCの寺田紳一選手、そしてガンバ大阪で活躍中の倉田秋選手です。みんなガンバ所縁の選手。パッと思いつくのがやはり、自分が見てきた選手になってしまいます。 最後の5つ目は、人との巡り合わせやきっかけでプロになれる選手です。「運も実力です!」というタイプですね。 こちらは正直、選手目線でなぜプロになれたのか分からない選手も多く混ざっていると思います。 大多数は否定的だけど、スカウトだけは彼の才能を見抜いてくれている、そのチームのポジションバランスなどのタイミングでポッと入れたり、指導者が同じ大学、高校だったり、先輩がいい結果を出していることで繋がりが深まり、入団できたりといろいろです。 こちらは、本当に人との巡り合わせだと思うので、たとえ才能があっても、この要素が欠けているとプロになれない場合もあると思います。ざっくり言ってしまえば、運のない選手ですね。 このタイプの例としては自分、橋本英郎が入っていると思います。 僕はガンバでプロになった時、半年契約の練習生でした。僕だけでなく、その年は、大宮アルディージャの播戸竜二選手を含め、他に練習生契約の選手が5人いました。つまりその年はクラブの方針として練習生制度を取り入れ、より多くの新卒選手を抱え、プロで通用するかどうかを見極めていた。そういう時期だったんですね。 もしそんなクラブの方針がなければ、僕はユースからトップチームに昇格できてなかったと思います。 僕と播戸選手はいまでも現役でプレーできていますが、他の練習生の中には、その年で引退を決めた選手もいましたし、数年プレーした選手もいました。 (C)SOCCER DIGEST もっと言えば、僕は2人目の監督であるフランス人のフレデリック・アントネッティさんによって、引き上げられました。Jリーグ、ナビスコカップで使ってもらえたんです。 ナビスコカップの試合に出場できたきっかけは、ずばり「挨拶をちゃんとしていたから」でした。消化試合のような要素が少しあったのか、チャンスをくれました。いろんな巡り合わせがあって、監督の好みと一致したり、チャンスを与えてみようと思ってくれる場合もあるんです。 プロになるきっかけは、どこに落ちているか分からないものです。で、プロになれるチャンスを拾えた選手は、やはり、努力を続けてきてきた選手に多い気がします。普段から努力していると、巡り合わせのタイミングでちゃんと力を発揮できたり、準備不足という状況には陥らないからです。 日々成長しようと努力して、いろいろな方(親御さんやコーチ、監督、先輩)の話をしっかり聞いて、自分にとってなにが大切なのか、必要なのかを考えられる選手であれば、そのようなプロになれるチャンスが巡ってくると思います。 誰もが認めるサッカーの才能を持っている選手は気にしないかもしれないですが、そのような選手でもこのような要素(運を引き寄せる努力)に気づいた選手は、海外で活躍、日本代表で活躍できるのだと思います。 才能がある上で、努力する──。まあ勝てませんね、そんな選手には。でも才能がありながらも“気づいていない選手”とは、戦えると思います。 日本人の勤勉さを活かして、いいプレーヤーがこれからもどんどん出てきてほしいですし、Jリーグのスカウトの方々にはそんなタレントをしっかり見つけてほしいですね。と同時に、規格外のズラタン・イブラヒモビッチ選手のようなバケモンと呼ばれる選手も出てきてほしいです。 以上、プロになれるのはどういう選手かを、僕なりのアプローチで考えてみました。スカウトではありませんので、選手目線で捉えたことをご理解ください。 橋本英郎 サッカーダイジェストWEBより転載 http://www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=29980 前の記事へ 一覧へ 次の記事へ 関連の記事 コラム 2019.11.09 【コラム】アスリートと栄養と私(山口コーチ) コラム 2019.12.21 【サッカーダイジェスト|現役の眼】どこか”心”で負けていた日韓戦。ひとりの敵FWにCB3人でマークしていては… コラム 2017.09.01 【現役の眼】元日本代表MF、橋本英郎が見極める「日豪決戦、勝負を分けたポイント」