コラム 2020.12.30 【橋本英郎のJ3総括】なぜ秋田が独走優勝を飾り、2位を巡る昇格争いが熾烈を極めたのか── 戦術の徹底と5人の交代枠に「勝因」が 今季J3で26試合に出場した橋本。来季はJ2昇格を現実的な目標に据える。(C)J.LEAGUE PHOTOS みなさん、こんにちは。FC今治の橋本英郎です。いろいろあった2020年シーズンのJリーグも終わり、3つのカテゴリーで熾烈な争いが繰り広げられました。 FC今治が初めて戦った舞台が、J3です。今回はあまり取り上げられる機会が少ないJ3の2020年シーズンに関して、僕が感じたことなどをまとめてみたいと思います。3つの注目ポイントに分けて書かせてもらいます。 【テーマ①:ブラウブリッツ秋田はなぜこれほどまでに勝ち続け、安定していたのか?】 2位に12ポイントもの差を付けて、J3優勝とJ2昇格を飾ったのがブラウブリッツ秋田です。なぜそこまでの独走態勢に入れたのか。端的に言えば、それは戦術の徹底と5人の交代枠にあったと僕は考えています。 彼らの戦いは、シーズンの前半戦から統率された守備と、迫力あるカウンターとセットプレーを中心とした攻撃にありました。特にディフェンス時の身体を張る部分、人数をかけて守り切るところに目を見張るものがありました。 相手チームにボールを保持されていても我慢強く耐え切る守備。そこから効果的なカウンターを仕掛け、コーナーやセットプレーを確実に取り、数少ないチャンスでもしっかり得点を奪ってみせる。そしてゴールを挙げることで、より堅守に磨きがかかっていった。そんな印象を抱きました。 また、苦しい展開でなかなか点が取れていなくとも、最終的には交代で投入された選手がダメ押し点、勝ち越し点をしっかり決める。他チームが勝ち切れない試合があるなかで、ベンチメンバーを含めた戦い方を追求し、90分プラスロスタイムで勝ち切る強さを備えていました。 SC相模原が最後の最後に滑り込みで昇格を果たせたのも、シーズンの後半戦を負けなしで戦い続けられたから。彼らも堅守速攻の徹底にセットプレーからの得点と、秋田に似た勝ちパターンを整えていました。 最終節は僕たちFC今治に勝つのが昇格条件でしたが、それまでに負けない戦いを貫き、勝点を着実に積み上げてきたからこそ、成し遂げられた昇格だと感じています。 ふたつのU-23チームが小さくない存在に 首位独走のままフィニッシュした秋田。勝つための戦術が徹底されていた。(C)J.LEAGUE PHOTOS 【テーマ②:2位争いがなぜこれほど熾烈になってしまったのか?】 もうひとつの昇格枠、2位の座を巡る争いは最後までスリリングでした。今季のJ3は上位と下位の力の差がさほど大きくない、そんなリーグになっていたからだと思います。 加えて、ガンバ大阪とセレッソ大阪の両U-23チームの存在はやはり無視できないものでした。若手中心のチームですが、彼らは時として強力なチームになり、またある時は脆弱なチームにもなりました。これは対戦相手にとっては重要なファクターであったと感じます。 彼らの平均年齢は20歳弱です。ユースチーム所属の選手も多く出場するため、その日になってみないとゲームパフォーマンスがどれほどのレベルなのかが分からない。常時良好な状態で戦い続けることに慣れた、経験の高い選手は多くありません。 このようなチームがいることで、勝点を積み重ねやすいときと難しいときが生まれ、昇格を目ざすチームにとってはポイントの計算で少なからずの狂いが生じていたと思われます。 もう1点、大きなポイントがあります。 それは、絶対的な得点源の選手が少ないこと。J3は外国籍ストライカーの数が少ないリーグなのです。 昇格チームに得点ランキングの上位選手が多いかというと、4位タイのホムロ選手(相模原)と、8位タイの中村亮太選手(秋田)のふたりだけ。逆に下位や中位のチームから得点ランキング上位に顔を出す選手が多い、特異な結果となりました。 つまりは、点を多く取って勝ち切ることが難しい。失点をいかに抑えられるかで勝点に繋がってきたかが、データ上にも表れているのです。あらためて思うのは、やはり秋田と相模原の堅守が昇格のポイントだったということです。惜しくも3位で昇格を逃したAC長野パルセイロも、シーズンを通じて堅守を誇示していましたが、最終節(いわてグルージャ盛岡戦/0-2)だけは、前述の「得点を多く取る」「無失点で終える」の2点を実行できませんでした。 この点に関してFC今治はどうだったか。しっかり失点を減らすところは実践できていましたが、やはり点を取るところがシーズン通じてなかなかクリアできませんでした。 ロアッソ熊本はリーグ最多の56点を叩き出すなど、点を取ることに関しては抜群の安定感でしたが、失点を抑えて勝ち切るというところが最後まで整いませんでした。得点と失点のバランスが上手く取れないチームが多いなかで、2位争いは混迷を極めたのだと考えられます。 FC今治の昇格へのカギは「プレッシャーを楽しめるか」 最終節で3ポイントを上積みした相模原。見事逆転で昇格切符を手中に収めた。(C)J.LEAGUE PHOTOS 【テーマ③:2021年シーズンのJ3はどうなる?】 チーム数はガンバとセレッソのU-23チームが参戦しなくなるので、15チームになります。それに伴い試合数は28試合に減少します。昇格を目ざすチームは半分くらいになるでしょうか。 今年のように新型コロナウイルスの影響により、半年で戦うシーズンにならないかぎり、個人的には試合間隔が開く間延びしたシーズンになると思われます。今季の内容と来季のリーグ状況から総合的に判断すれば、やはり堅守速攻が変わらず、上位を狙うポイントになるでしょう。なぜなら来季も得点力のある外国籍選手が、あまりいないリーグになりそうだからです。 また短期的にパフォーマンスが高いだけのチームでは、息切れしてしまい、勝点を稼げていけません。年間を通じて安定したパフォーマンスを出せたチームが、来季は昇格に近づける。つまり今季に2位争いを繰り広げたチームよりももっと多くの候補が出てくるはずです。 今季は1週間で3試合をこなすときが何度かありました。この連戦を3連勝すれば上位に上がれましたが、来季はほぼ3週間で3試合のペースなので、常に良い状態を維持して勝ち続けなければいけません。試合間隔が十分用意されるなか、勢いだけでは難しくなります。 僕たちFC今治は、今季初めてJリーグを戦いました。初めてにしては健闘したと言われましたが、来季は昇格のプレッシャーをより受け止めながら戦うことになるはずです。そのプレッシャーを楽しめるのか、重荷として捉えず横にスッと置いて戦えるのか。このあたりが、僕たちの場合の昇格の鍵になってくるでしょう。 最後に──。 現役を引退する選手が、今季は例年より多くいるように感じています。特に実績十分の有名な選手、自分が日本代表でともにトレーニングやゲームをこなした仲間たちが引退しました。 自分自身も引退してもおかしくない年齢になっていますが、大好きなサッカーをプロとしてさせてもらえるかぎり、全力で楽しんで、昇格争いのプレッシャーも感じられる来季にしたいです。 <了> 橋本英郎 PROFILE はしもと・ひでお/1979年5月21日生まれ、大阪府大阪市出身。ガンバ大阪の下部組織で才能を育まれ、1998年にトップ昇格。練習生からプロ契約を勝ち取り、やがて不動のボランチとして君臨、J1初制覇やアジア制覇など西野朗体制下の黄金期を支えた。府内屈指の進学校・天王寺高校から大阪市立大学に一般入試で合格し、卒業した秀才。G大阪を2011年に退団したのちは、ヴィッセル神戸、セレッソ大阪、AC長野パルセイロ、東京ヴェルディでプレー。昨季からJFLのFC今治に籍を置き、見事チームをJ3昇格に導く立役者のひとりとなった。日本代表はイビチャ・オシム政権下で重宝され、国際Aマッチ・15試合に出場。現在はJリーガーとして奮闘する傍ら、サッカースクールの主宰やヨガチャリティー開催など幅広く活動中だ。Jリーグ通算/463試合・21得点(うちJ1は339試合・19得点/2020年12月30日現在)。173センチ・68キロ。血液型O型。 この記事について:サッカーダイジェストWEBより転載 https://www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=84093 前の記事へ 一覧へ 次の記事へ 関連の記事 コラム 2019.09.16 ジュニアユースチーム監督の田原です! コラム 2019.10.29 【コラム】サッカーとフットサルの違い②(小西コーチ) コラム 2020.05.15 【サッカーダイジェスト|現役の眼】橋本英郎が選ぶJ歴代ベスト11「対戦したから分かる“衝撃を受けた11人”! すべてで圧倒されたのは…」