コラム 2018.04.13 【橋本英郎】戦いの道筋が見えてこないハリルジャパン。柴崎、中島、槙野は存在を示した 写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部) ワールドカップ開幕がおよそ2か月に迫ってきました。この1週間は国際Aマッチウイークで、出場国の準備が一気に進んだ印象です。僕たちが戦うJ2はドメスティックな環境で、毎週かならず週末に試合があるリズムが続いています。 ということで今回は、ベルギーで行なわれた日本代表対ウクライナ代表戦を見て感じたこと、思ったことを僕なりに書いてみようと思います。 スタメンの注目はやはり、本田圭佑選手と柴崎岳選手でしたね。彼らはメキシコ、スペインでプレーしていますが、それぞれ進化した姿を見せられる機会が代表では少なく、個人的にどのような関わり方をしていくのかに興味がありました。本田選手をウイングでどこまで試し続けるのか。中盤3枚の構成の中で、バランサーの長谷部誠選手、ボール奪取と散らしを担当する山口蛍選手がいる。柴崎選手がこのふたりとどう絡み、どんなタスクを担うのかに注目しながら、試合を観ました。 本田選手のようなタメを作れる選手、時間を前線付近で作れる選手は、この試合では彼しかいませんでした。その意味ではやはり代表では、貴重な存在であり続けています。柴崎選手は、フリーキックからアシストもしましたし、周りとの連携、プレーの制限が取れてくると、もっといい状態になるのではないかと感じました。中盤の3人の関係性は、柴崎選手の役割が明確でなかったぶん、あまりしっくり行かなかった印象です。それでも、初めての組み合わせの中でもポジションバランスを取ったり、能動的に仕掛けたりしていたのは、今後に向けたプラス材料ではないでしょうか。 前半、日本はハイプレスを掛けたいように見えましたが、なかなか難しそうでした。1対1の状況まで追い込めてはいるんですが、ウクライナにしてみれば、さほど追い込まれているとは感じていなかったでしょう。サイドバックやボランチのところでプレスを掛けても、サイドバックは当てられてタッチラインを割り、敵のマイボールにされ、ボランチは逃げ道のパスコースを与えてしまう。そのためにプレスを上手く掛けているつもりでも、結果的には掛かっていなくて、徐々にプレスのポイントが曖昧になっていきました。 攻撃面では、パスミスの多さが目につきました。なぜそうなってしまうのか。ウクライナ代表との違いから考えてみました。 前線にパスを入れる際、日本のセンターバックはフリーにも関わらず、ウクライナがプレッシャーを掛けやすいところにボールを入れていました。敵を引きつけることをせずにパスを出してしまうため、受け手には時間とスペースがない。また、早めにパスを出してあげるべきところでは、ボールタッチを増やしてしまう場面が多かったように思います。 左サイドの原口元気選手は、前向きに受けられると攻撃の推進力を出せていました。右の本田選手は逆に詰まった状況で受けてもタメを作ることによって、他の選手に時間とスペースを与えていましたね。ただ、全体としては、自信を持ってプレーをしている選手が少なかったように感じます。相手選手のプレッシャーをプレッシャーと受け取りすぎていたからでしょう。焦ってパスを出したり、自分たち主導でプレーをする機会が少なかったのです。 写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部) 守備時にどうしても怖がっているように見えたのが後半です。ベンチからも下がるなと声が出ていました。観客の少ない試合でしたので、声がよく響くこともあって、生の現場の声が聞こえてきたのも、ある意味で面白かったです。 その守備時のポジション二ングでも日本は問題を抱えていました。センターラインの守備網ですね。相手のキーパー、センターバック、そしてボランチからトップ下、フォワードへのパスコースが開き過ぎていました。そのため、後半はさらにプレスの狙い目が曖昧になっていました。奪いどころをどう決めていくのか。それととともに、守っていながらも相手のボール回しを誘導していければ、今後改善できるのではないでしょうか。 当然ですが、代表戦は国と国との戦い(戦争)。この事実をあらためて思い知らされました。杉本健勇選手が怪我をしてしまったシーンなどは、あまりよく見えないところでのブロックでしたが、あれは単なるブロックではなかったです。相手選手は膝を上げていて、倒す意図がありありでした。球際の強さと言いますが、対峙する選手の脚ごとボールにアタックするのがやはりスタンダードなのでしょう。 そのせいか、日本のプレーヤーがやたらと倒れているように感じました。海外で戦うプレーヤーはそのような環境に慣れていると思いますが、日本のJリーグでは許されないようなプレーが、このゲームの中でも随時繰り広げられていたわけです。なかなか順応するのに時間がかかっているようにも見て取れました。前半の立ち上がりから後半のようなファウルすれすれのプレスを掛けられれば、相手選手がプレー選択を間違う場面が増えたかもしれません。いずれにせよ、前線から追いかける際の“2度追い”がチーム戦術で制限されているのか、なかなかスムーズにできていなかったのが残念です。 一方、体力で勝る部分は所々で見られました。ウクライナの選手が疲れてきたのもあって、日本がゲームをコントロールできる時間帯も生まれていたので、やはりゲームを拮抗した状況にしておくことが、ワールドカップでも重要な要素になりそうです。 最終的には選手交代が多くできてしまう親善試合なので、フレッシュな選手がゴールを決め、フレッシュではない原口選手が戻り切れなかった。その点からも、拮抗した展開に持ち込むことができれば、選手起用によってゴールを生み出せるのではないでしょうか。 日本も、中島翔哉選手を投入してからは雰囲気が変わりました。最後の10分間程度でしたが、期待を持たせてくれる部分があり、個人としては柴崎選手と一緒にピッチに立ってほしかったです。 体力で上回れるなら、やはりハイプレスを掛ける時間があってもいいと思います。終盤にリードを奪われている状況下では、中央をしっかり塞ぐことができなくなっていました。負けている時にどのようにリスク管理をしながら、リスク承知のチャレンジができるか。ここがキーになりそうです。 写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部) また、どのポジションもそうですが、ボールを持ち運ぶ力が足りていなかった気がします。順目でプレーする際と、相手の意表を突いて逆を取るプレーの選択が上手くできていなかった。中島選手、小林悠選手が逆を取れた時はしっかりチャンスを掴んでいましたから。このあたりが噛み合うようになってくれば、速攻と遅攻をバランス良く使い分けていけるのではないでしょうか。 昨年11月のブラジル戦の時も書かせていただきましたが、力関係を一瞬にして解放してくれるのがセットプレー。このウクライナ戦でも炸裂しましたね。この点は、やはりこだわって攻撃の軸に持っていく必要性があると思います。 では、ワールドカップ本大会に向けて、しっかり存在を示すことができた選手、爪痕を残せた選手は誰だったか。今回は、柴崎選手と槙野選手、中島選手でしたね。彼ら3人は得点に絡むという点で明確な結果を出しましたし、「チャレンジするプラスアルファ」を表現することも心がけていたように感じました。そうしたスタンスを貫いたからこそ、みなさんの関心も引いたのではないでしょうか。 今回の2連戦では、ワールドカップでどのように戦っていくのかの道筋を確認することはできませんでした。なんとなくやろうとしていることは伝わりましたが、追求しているようには見えない。やはり選考会の要素が強かったからかもしれません。 要求されることを振り払ってでも、自分たちが楽しむことができた選手が良いアピールに繋げられたように感じますし、状態の良い選手は、チャレンジもできていたのかもしれません。 残すところあと2か月。大会登録の23選手がどんな顔ぶれになるのかは分かりませんが、ワールドカップにはベストコンディションで臨んでほしいものです。 <了> 橋本英郎 サッカーダイジェストWEBより転載 http://www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=37931 前の記事へ 一覧へ 次の記事へ 関連の記事 コラム 2020.01.06 2020年初蹴り! コラム 2019.10.07 【10/27】成長期に多いケガの予防と対策講習会 コラム 2019.12.21 【サッカーダイジェスト|現役の眼】どこか”心”で負けていた日韓戦。ひとりの敵FWにCB3人でマークしていては…