コラム 2018.06.26 「ずば抜けたメンタル!」元日本代表、橋本英郎が紐解く“プロフェッショナル本田圭佑”の実像 僕から声を掛けたらすごくビックリした表情で… 8年ぶりの再会を果たした本田(左)と橋本(右)。大阪出身同士のコンビは、長いブランクを感じさせないシンクロぶりを見せたようだ。写真提供:橋本英郎 いよいよロシア・ワールドカップが近づいてきましたね。 ガーナ戦の日本代表メンバー27人が発表されて、がらりと体制も替わり、僕のガンバ大阪時代の元上司(?)にあたる西野朗さんが日本代表の新監督になりました。これからワールドカップまでの短い期間で、ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督が指揮を執っていた部分から、いろいろなところで変化を付けていくと思います。 そんななか、今回は我がチーム、東京ヴェルディの練習に参加していた本田圭佑選手について書いてみようと思います。 彼が偶然にもヴェルディの練習に参加することになって、実に2010年以来の再会を果たしました。どうやら僕がいま、このクラブにいることは知らなかったようで、練習が始まって僕のほうから声を掛けたんです。すると、すごくビックリした表情で。彼のなかでの僕はガンバ大阪からの最初の移籍先、ヴィッセル神戸のところで止まっているようでした。 8年ぶりに対話した彼と最初に出会ったのは、イビチャ・オシムさんが率いていた頃の日本代表合宿でした。当時は毎月のようにキャンプで集まっていて、たしか会場は静岡のJステップだったと思います。本田選手はまだオランダ(VVVフェンロ)でプレーしていましたね。 僕が、現在川崎フロンターレの家長昭博選手と同部屋で、本田選手はよく部屋に遊びにきていました。3人で話をしたのを思い出します。内容はまったく覚えてないんですが、家長選手と本田選手はガンバジュニアユースの同級生。その頃から仲が良かったんだろうなぁと感じたのを覚えています。 よく本田選手のジュニアユース時代の話が出ますよね。家長選手はものすごいライバルで、家長選手がユースに上がった一方で、本田選手は高校サッカーのほうに道を進めた。そこの関係性のところも勝手な解釈をしていたのだと、そのとき理解しました。 そんな本田選手を僕なりに、「人物」と「プレーヤー」のふたつの側面から考えて、書いてみたいと思います。 他人のいい部分や思考を紐解いて、考えるクセを持っている。 自身3度目のワールドカップへ照準を合わせる本田。はたしてロシアの地で左足が唸りを上げるか。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部) まずは「人物」。みなさんご存知の通り、彼は生粋の関西人。ノリが良くて、人見知りもせず、どんどん気になることは質問していきます。気づいたことはしっかり相手に伝えますし、周りの空気も理解しています。あえて空気感を壊すこともできる、そういう人物だと思っています。 ヴェルディの練習に参加してプレーするときも、みんなが一歩引いているところを理解して、自分から歩み寄って声を掛けていました。少し距離が近くなれば質問も受け付けてましたし、アドバイスもしていましたね。2週間弱と短い期間でしたが、不思議なもので長らく一緒に戦ってきたチームメイトになったかのように、他の選手との距離も近くなっていました。 海外で活躍するには、やはりこのフランクさやコミュニケーション能力が大事なのだと、あらためて感じさせられました。もっと言うと、練習にただ参加するだけでなく、彼は他の選手のプレースタイルや特徴を感じ取りながら、その成長の度合いや個性も見極めていました。 そして、こんなことを話していましたね。 「毎試合ゴールを必ず取る! って気持ちで臨んでても3試合で1試合しかゴールを決められない。メッシやロナウドのように、毎試合3点取る!って思っているくらいじゃないと、あれほど毎試合ゴールは決め続けられないんじゃないか」 ゴールへの探究心が強い。だからこそリネオル・メッシやクリスチアーノ・ロナウドの考えにも想いを巡らせられる。聞いていて驚きましたね。普通は「メッシすげー」「ロナウドばんばん点取るなぁ~!」と思うだけで、そうした視点でスーパースターを捉え、ゴールへの筋道をどう考えているのかなど、想像したこともなかったので。 僕個人がポジション柄、点を取ることを優先して練習をしていないからかもしれませんが、いまや海外サッカーはいつでも観れますし、サッカー界のどこにいても上には上がいるので、学ぶべき対象はいくらでもあるということですね。 自分のことだけ考えるのではなく、他人のいい部分やなかなか見えていない思考を紐解いて、考えるクセを持つ。そうした部分をとても大事にしているんだなとあらためて感じました。 また、社会の問題にも敏感で、学校の顧問の先生などの労働環境、部活動をしている生徒たちのことを考えた仕組み作りが必要だと感じ、新しいビジネスモデルを組み立てようとしていました。僕自身もその問題を以前から感じていて、将来引退した後にその問題に取り組むつもりでいたので、彼が海外でプレーをしながらもその点に気づき、すでに行動していたのには本当に驚きました。 岡田ジャパンで再会したとき、“考え方”が変わっていた 当初は3日間の予定だったが、ヴェルディでの練習参加は最終的に2週間に及んだ。最後は背番号と名前入りのユニホームが進呈された(東京ヴェルディ公式Facebookページより)。(C)TOKYO VERDY 次に「プレーヤー」としての本田選手。 代表で出会った当初は、正直言ってそれほどインパクトのある選手ではありませんでした。ザ・関西人。性格のほうがより印象に残っていました。それ以上にその頃の僕は同級生のライバルが多くいたので、中田浩二選手や稲本潤一選手とともに合宿に参加して、気づけば雲の上の存在になっていた彼らとプレーできる喜びを感じていました。 話を戻しましょう。本田選手に対しては、技術面でずば抜けているという感覚も身体が本当に強いなぁと感じたことも特になかったです。基本的なアベレージが高い感覚はありましたが、特別図抜けた一芸を持っているタイプの選手とは感じていませんでした。 でものちに日本代表の監督が岡田武史さんになった頃、彼はオランダ・リーグで得点を量産していました。そこで再会した際には、以前とはイメージがかけ離れ、得点への探究心を持つ選手になっていました。オランダでのプレーヤーとしての評価基準は、アシストではなくあくまでゴール。それを実感し、考え方を変えていたようでした。 ゴールへの逆算をしっかりしつつ、練習の中でもいちばんゴールが取れるポジション、場所を探しながら、考えながらプレーしていました。やはりそこが本番の試合で活きてくる。練習が練習で終わらない。つねに実践することを心掛け、試合を意識した練習をしているなと感じました。 その後の彼の活躍を目の当たりにして、自分自身に彼ほどの意識があればもっと見える景色が変わっていたんじゃないかと考えていました。 つまり彼のいちばんの特長は、技術でもフィットネスでもなく、メンタル面にあったと思います。 プロになった選手は一定ラインをクリアしています。つまりポテンシャルはあると認められているのですが、ポテンシャルがあってもそこから上に上がっていくためには、メンタルのタフネス、フィットネスのタフネスが本当に重要になります。 身体が丈夫でなければプロの世界、海外で闘い続けることは難しくなってしまいます。だからといってメンタルが弱ければ、成長していく過程で高く大きな高い壁にぶつかったときに乗り越えられなくなります。 「連敗している状況をいかに楽しむか、ポジティブに考えられるか」 メキシコ・リーグでの好調を持ち込む。日本代表合宿でもコンディションの良さを窺わせている。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部) 今回の練習参加の際、ふと彼が言ったひと言が印象に残っています。 本田選手の練習参加がスタートとした時点で、ヴェルディはJ2で3連敗していました。チーム状況があまり良くない、そのようなチーム状況のなかで練習参加を受け入れてくれた監督、クラブは器量が大きいと話していたのです。 当初は3日間の参加の予定でした。クラブとしても、彼とヴェルディの選手たちとの間がどのような雰囲気になるのか分からなかったため、お試しの3日間だったようです。その際に、この連敗している状況をいかに楽しむか、ポジティブに考えられるかが大事、そうマインドが変わればいいのにね、と語っていたのが印象的でした。 彼はこれまでのキャリアにおいても、逆境から這い上がり、前へ前へと進んできました。そのときどきで、こうしたマインドを発揮して乗り切ってきたんだなと、そう感じさせるひと言でした。 実際にチーム状況が悪いなか、本田選手が練習に入ってくれたことで意識が変わる選手も多く出ました。練習のレベルが上がる部分もあったと思いますが、意識の部分でも小さくない影響を与えてくれたのです。 ところで今回、ヴィッセル神戸にアンドレス・イニエスタ選手が加入しましたね。「イニエスタが神戸に!?」という驚きと、なんだかそわそわドキドキさせる選手が日本でプレーしてくれることに喜びを感じています。 イニエスタ選手も本田選手のように、チームだけでなく、神戸という街にも影響を与えるのではないかと思います。それほど巨大な黒船が日本に来たのだと思います。見た目はかなりのベビーフェイスですが。いろいろな意味で神戸に変化が生まれるのを楽しみにしています。 そしてもちろん、本田選手をはじめとした日本代表がワールドカップで熱い闘いを見せてくれることにも、大きな期待を寄せています。 <了> 橋本英郎(はしもと・ひでお) この記事について: サッカーダイジェストWEBより転載 http://www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=40902 前の記事へ 一覧へ 次の記事へ 関連の記事 コラム 2019.10.19 【サッカーダイジェスト|現役の眼】驚かされたタジキスタンの闘う姿勢。“緊張感”を欠いたままなら日本の最終予選は… コラム 2019.03.26 【橋本英郎】日本の前半の守備は完璧な出来栄え! ただ新三銃士は香川&乾コンビに対して… コラム 2020.05.15 【サッカーダイジェスト|現役の眼】橋本英郎が選ぶJ歴代ベスト11「対戦したから分かる“衝撃を受けた11人”! すべてで圧倒されたのは…」